QDT2008年12月号にファイバーコアの記事を書きました
従来のメタルコアは、象牙質より圧縮強度が高いため咬合の問題もあるが、歯牙破折を起こす危険性が高い。しかし現在は、接着歯学の進歩によりグラスファイバーによるコアがベストと考えている。しかしファイバーコアの歴史は浅く直接法で行なうのか?間接法で行なうのか?それぞれの利点欠点を知り使用するべきである。またテクニックセンシティブなため接着時の注意点、根管治療時の使用薬剤による接着阻害などを現在に時点でわかる事をまとめた。
はじめに
歯冠修復材料、接着技術の向上、インプラントなど、近代歯科学は様々に進化してきた。審美性の要求度も高まり、それに応じて酸化アルミナスやジルコニアなどのオールセラミック素材などの光透過性のあるコーピングを使用する事が多くなってきた。当然、歯冠修復の基礎となる支台築造法も審美性に少なからぬ影響を与えることになり、メタルコアから、レジンコアに徐々にその地位を譲りつつある。
しかし、メタルコアとレジンコアでは、使用法に違いがある。メタルコアと違い、接着する必要があるのは周知のことではあるが、接着という操作は化学的結合が中心になっている。その結果、合着よりも更に細かい配慮が必要になり、作業ステップが多くなることは意外に知られていないのではないかという印象がある。
そこでこの機会に、支台築造の前提となる根管治療から見直して、より信頼性の高い支台築造について考えてみたいと思う。
Part1 根管治療
支台築造を行う前提として、抜髄か感染根管処置が必須になる。どちらにしても機械的拡大、化学的清掃を伴うものである。根管治療を正確に出来るスキルがなければ支台築造も砂上の楼閣となり、どんなに素晴らしいオールセラミックスを装着したとしても、再治療や、最悪な事態として抜歯という結果が待っている。根管治療をきちんと行うことは自分と患者さんの信頼関係を守ることに他ならない。
根管治療に関する自分の考え方は、基本的に「根管治療は根管の消毒に尽きる」ということである。つまり、根管の隅々まで次亜塩素酸ナトリウムを行き届かせることで、細菌を溶解することが根管治療の主体である。根管消毒を正確に行うために、根管内容物を除去し、根管の形を整えることが、機械的清掃と根管拡大。根管消毒の終わった根管内に細菌が繁殖するスペースを作らないようにすることが根管充填である。こういう作業を行う上で、根管治療にはマイクロスコープが非常に有効である。
(1) 根管治療の基本的なステップ(チャート1、図1)
ⅰ.歯冠部の処置
修復物やカリエスの除去、髄質の開拡、髄核の除去、髄室内の洗浄
ⅱ.根管の拡大
根管口の明示〜根管内容物(歯髄を含む)の除去、根尖からのフレアー形成、スメアー層の除去
ⅲ.根管消毒
次亜塩素酸ナトリウムによる根管内の消毒
ⅳ.根管充填
根管内の徹底的な乾燥と根管充填
であり、もちろん状況によって、ⅱとⅲは交互に繰り返される事がほとんどであるが、基本的な概念としてこうとらえている。
(2)ステップごとの留意点
ⅰ.基本的に、この段階で最も注意するべき事は、隔壁の構成と、カリエスの除去である。カリエスを残して治療を進めると、感染物質を根尖側に送り込んだり、根管治療を終了してから抜歯の可能性が浮上したりするので、必ずきちんと取っておくこと。また、ラバーダムがきちんとかかるように、歯質が全周に残っていることが望ましい。もし無ければ、レジンで隔壁を作ってから根管治療にかかるべきである。
根管治療が出来る条件が整ったら、髄室内を徹底的に超音波スケーラーやエアースケーラーで洗浄してから次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。髄室内をきちんと処置した後に、根管口を明示して拡大作業に入る。根管が狭窄して、根管口が見つけにくい場合は、次亜塩素酸の発泡を頼りにしたり、Canal Blue(モクダ)などで染色するのも良い方法である。
ⅱ.根管拡大で最も重要なことは、安全に処置を進めることである。根管口から根尖までの間を、連続性のあるフレアー形成を行うのに当たっては、根管の形態を把握していることがまず大事である。また、安全に拡大するためには、器具にストレスをかけずに操作することが大事であり、これにはクラウンダウンが適している。根管口から拡大することで、器具のコントロールがしやすくなり先端部が破折したり、ステップを作るのを防ぐことが出来る。(図3)
薬液洗浄を効果的に行うには、6%程度のテーパーを与える根管形成が望ましいとされている。手用ファイルで与えることが基本であるが、K3などのロータリーファイルを使用して、省力化、規格化を図ることも出来る。(図4K3)
抜髄根管ならば歯髄をクレンザーで除去することが最も効率がよい。その後、次亜塩素酸ナトリウムを入れながらH-fileなどで丁寧に残渣を取ってくる。感染根管処置の場合、ガッタパーチャポイントを除去する必要があるが、このとき一般的にユーカリ油やGPソルベントを使って軟化する方法と、GPXリムーバー(図5GPX)とエンジン、エアースケーラーとダイヤモンドファイル(図6ダイヤモンドファイル)を使って除去する方法がある。前者は、溶けたガッタが壁面にこびりつく欠点があるが、根管壁を傷つけにくい。後者は、ガッタをフレーク状にして除去するので、壁面にこびりつくことはないにしても、操作によっては壁面を傷つけることがある。また、どちらの方法にしても根管内のガッタを完全に取り切ることは不可能であり、マイクロスコープか、少なくとも表面反射ミラーとルーペの組み合わせで確認する必要がある。(図7壁面にこびりついたガッタの写真と除去用のスクレイパー)
根管内容物がほぼ無くなったのを確認したら、液状のEDTAを満たし、1分以上エアスケーラーで空回しし、その後良く水洗すること。
ⅲ根管内容物を可及的に取り去りスメア層を溶解洗浄した後に、根管内を次亜塩素酸で満たし、エアースケーラーで振動を加え、薬剤の洗浄効率を上げる。
この際、根管内を傷つけないように刃のついていないファイル(図8オサダ超音波用プラガー)を使用する。
発泡の程度が落ち着いたなら無水アルコールで洗浄、吸引乾燥(図9根管内バキュームチップ ウルトラデント)、ペーパーポイントで乾燥する。
ⅳ 根管充填は様々な種類があるが、どの方法をとったとしても、ここまでのステップがしっかり出来ていれば大きな問題は起こらない。強いて言えば、歯質が菲薄なケースでは、接着性のあるシーラーを使った方がよいとは思われる。最も重要なことは、加圧しすぎて歯牙にマイクロクラックを入れないことである。根管壁に過度のストレスを与えることなく密封できればそのような方法でも差し支えない。
(3)支台築造を考慮した根管拡大(図9 コア形成の模式図)
レジン築造は金属築造に比べて形態的に自在性が有り、比較的アンダーカットを許容できる。そのため、コア形成時の歯質削去量は、根管治療のための削去量に比べてそれほど多くはならないと考える。むしろ破折ファイルを除去するための歯質削去や、コア除去時のバーの暴れによるダメージの方が深刻であると考えている。
今までは支台築造のための根管形成は、出来るだけテーパーをつけずに、パラレルウォールで形成することが推奨されてきた。適合の良いコアを、パラレルウォールで形成されたポスト孔にセットするためには、流動性の高いセメントが必要である。欧米で一般的に使用されているリン酸亜鉛セメントはそう言う意味で、金属築造のシステムに組み込まれる理由があった。エビデンスはないが、レジン築造に関しては流動性の悪いレジンセメントが主体となるため、若干のテーパーを持たせる方が浮き上がりの面で有利に感じる。
根管治療が失敗しては元も子もないので、根管内のポスト形成は、まず、根管治療のための拡大形成に準じて考えるようにしている。
ⅰ ファイバーポストの挿入方向(図10 模式図×2)
根管本来の走行に準じる。これを間違えるとパーフォレーションまで行かなくても、歯質の菲薄化を招き、長期的にはクラックの原因になる。また根管はほとんどの場合湾曲しており、無理に太く拡大すると、ストリップパーフォレーションを起こす。
ⅱポストの太さ(図11模式図)
使用するファイバーポストが歯質に接触しない太さを目安にする。歯冠部歯質がしっかりしていて補強の必要がなければファイバーポストは太い必要はない。
ⅲポスト形成の深度(図12模式図)
根管側枝が多数見られる根尖部4mmを残して形成すると言われているが、接着を基準にする場合、ポストの長さがどのくらいの意味をもつのかは今のところ不明である。ただ、歯冠にかかった力が、ポストを通じて根管内歯質にかかってくるのならば、長い方が面圧は減少する。岡口守雄先生のように、マイクロクラックを接着によって補修、補強するというコンセプトを考えれば、深くするべきではある。もちろん、強湾曲部を超えてポスト形成をすることは危険でありお勧めしない。
(4)根管治療において、支台築造に影響を及ぼすもの
金属に比べて強度に劣るレジンによる支台築造は、化学的に歯質と接着するかどうかが勝負の分かれ目である。根管治療における薬剤については、、歯質とレジンの接着に不利なものがあり、薬剤の残留は築造体の脱落を招く危険性がある。この辺りを列挙してみようと思う
ⅰ 次亜塩素酸ナトリウム
レジンの硬化には、酸素が非常に有害である。消毒の主力として使用する次亜塩素酸ナトリウムは、使用直後はかなり高濃度の酸素を放出するため、根管充填直後の支台築造は注意が必要である。アスコルビン酸、スパーボンドアクセルなどで洗浄し、中和してから作業にはいることが望ましい
ⅱ EDTA
根管内のスメア層除去のために使用する。基本的にEDTA自体には接着阻害はないものの、製品によってはその添加剤に硬化阻害を引き起こすものがある。
シリコンオイルが配合されているものは、根管壁を一層オイルがコーティングしている状態になるので使用を勧めない。出来れば水溶性のものがよい。また、過酸化尿素が配合されているものは酸素を徐々に放出するので、根管充填後一週間ほど経過してから築造操作にはいるのが望ましい。スメア層の残留は、根管消毒の妨げになるだけでなく、根管壁と築造体との接着不良を引き起こすため、徹底的に行うべきである。
水溶性で、過酸化尿素が配合されていないEDTAは、ゲル状タイプではFile-eze(Ultradent)、液状タイプでは高濃度のものは18%EDTA(Ultradent)、低濃度のものは3%のスメアクリーン(ニシカ)がある。
ⅲ 水酸化カルシウム製剤
根管貼薬の主体は、水酸化カルシウムが中心になってきている。水酸化カルシウム製剤の中には、操作性を重視してシリコンオイルを付加したものもあり、そう言うものは前述のEDTA同様おすすめできない。水酸化カルシウムの粉末を精製水で練和するか、水溶性の製剤を使用する方が安全である。
水溶性の製剤としては、カルシペックス(ニシカ)、ウルトラカルXS(Ultradent)、マルチカル(モクダ)などがある。
ⅳ 亜鉛華ユージノール
シーラーに多用される。優れた制菌性と封鎖性を持つ材料であるが、残念ながらレジンの重合阻害剤の筆頭である。根管内を一層削除しても、粘性が高いため、削片が壁に残るとそこで重合阻害を起こす。最近では不飽和脂肪酸を基剤に使ったものや、レジンシーラー、MTAなど、重合阻害を起こさないものが多数あるので変更を検討するべきである。
Part.2 ファイバーポストレジンコアを確実にセットするために
(1) 接着操作を必要とする部位
ファイバーポストレジンコアを歯牙に接着させるためには、接着剤であるボンディングレジンが歯質、ファイバーポストと確実に接着しなければならない。つまり、接着を要する部分は、「象牙質」と「レジンコーティングされたグラスファイバー表面」の2部位に集約される。それぞれの特性をふまえて考えてみたい。
ⅰレジンと象牙質
象牙質ボンディングの基本的概念
デュアルキュア型の歯科用象牙質接着剤を用いてデュアルキュア型の歯科用支台築造材料を用いる必要がある。
また象牙質ボンディングを確実に行なうために可及的にラバーダム防湿を行い、水分の混ざっていないエアーを用いる事が必要であると考えている。3ウェイシリンジの構造上、内部に残った水分が吐き出されやすい。これがアセトンやエタノールを飛ばすためにボンディング後の歯面に吹きつけられれば、接着は良好には行なわれない。(写真 ファインエアー)
根管治療において、支台築造に影響を及ぼすもの
金属に比べて強度に劣るレジンによる支台築造は、化学的に歯質と接着するかどうかが勝負の分かれ目である。根管治療における薬剤については、歯質とレジンの接着に不利なものがあり、薬剤の残留は築造体の脱落を招く危険性がある。この辺りを列挙してみようと思う
ⅰ 次亜塩素酸ナトリウム
レジンの硬化には、酸素が非常に有害である。根管洗浄の主力として使用する次亜塩素酸ナトリウムは、使用直後はかなり高濃度の酸素を放出するため、根管充填直後の支台築造は注意が必要である。アスコルビン酸、スーパーボンドアクセルなどで洗浄し、中和してから作業にはいることが必要である。または、次回アポイント時になれば、継時的変化により次亜塩素酸の影響がなくなるため重合阻害にならない。
ⅱ EDTA
根管内のスメア層除去のために使用する。基本的にEDTA自体には接着阻害はないものの、製品によってはその添加剤に硬化阻害を引き起こすものがある。
シリコンオイルが配合されているものは、根管壁を一層オイルがコーティングしている状態になるので使用を勧めない。出来れば水溶性のものがよい。また、過酸化尿素が配合されているものは酸素を徐々に放出するので、根管充填後一週間ほど経過してから築造操作にはいるのが望ましい。スメア層の残留は、根管消毒の妨げになるだけでなく、根管壁と築造体との接着不良を引き起こすため、徹底的に除去するべきである。
水溶性で、過酸化尿素が配合されていないEDTAは、ゲル状タイプではFile-eze(Ultradent)、液状タイプでは高濃度のものは18%EDTA(Ultradent)、15%EDTA モルホニン(昭和薬品化工)、14.5%EDTA イーライズコンディショナー(ペントロンジャパン)低濃度のものは3%のスメアクリーン(ニシカ)がある。
ⅲ 水酸化カルシウム製剤
根管貼薬の主体は、水酸化カルシウムが中心になってきている。水酸化カルシウム製剤の中には、操作性を重視してシリコンオイルを付加したものもあり、そう言うものは前述のEDTA同様おすすめできない。水酸化カルシウムの粉末を精製水で練和するか、水溶性の製剤を使用する方が安全である。
水溶性の製剤としては、カルシペックス(ニシカ)、ウルトラカルXS(Ultradent)、マルチカル(モクダ)などがある。
ⅳ シーラー及び根管充填剤
シーラーに多用される亜鉛華ユージノールは、優れた制菌性と封鎖性を持つ材料であるが、残念ながらレジンの重合阻害剤の筆頭である。根管内を一層削除しても、粘性が高いため、削片が壁に残るとそこで重合阻害を起こす。最近では不飽和脂肪酸を基剤に使ったものや、レジン系シーラー、MTAなど、重合阻害を起こさないものが多数あるので変更を検討するべきである。
ⅱファイバーポストとレジンの接着
ファイバーポストの表面処理
ファイバーポストの接着力を低下させるものは、ファイバーポストの表面に付着した唾液、皮脂などの汚れである。試適後リン酸で表面処理をしてシランカップリング材を塗布する。
また、Cojet(3M ESPE)を用いてもよい。
(2) 直接法と間接法の使い分けについて
ⅰ直接法で行うときの注意点
象牙質とレジンとの接着強度を考えると直接法が有利になるが、コア部分の形態付与が間接法に比べ難しくなる。直接法では、気泡が入るとコアの機械的強度が著しく落ちる。またデュアルキュア型のコアレジンは、光重合させた部分と化学重合のみさせた部分では大きく強度が違う。
現在著者が用いているコア用のレジンは、クリアフィルDCボンドコア(クラレ)、ユニフィルコアオートミックス(GC)がある。
ⅱ間接法で行うときの注意点
間接法は、直接法に比べ形態が自由に付与しやすい。またアポイント回数が一回余分に掛かってしまう。そのため根管充塞後のコロナルリーケージを起こしやすくしてしまう。
しかしコア自体(エステニアなどで製作した場合)を加圧重合(加熱)でるため直接法のものよりコア自体の強度が増す。
接着力においては間接法(重合体であるため)が劣る。推奨されるレジンセメント パナビアF2.0(クラレ)、レジセム(松風)が歯質と接着力が優れている。
直接法か間接法かどちらを選択するかは、コア自体の強度と象牙質との接着力とのバランスである。
ファイバーポストに関してどの程度のポストの長さが必要なのかは、EBMはまだ無い。よくメタルポストのルールをそのままファイバーポストに応用している症例を観るがファイバーポストの歴史は浅く、ファイバーポストそのものがメーカーにより強度が大きく異なるためEBMが無い。しかし修復の歴史から考えるとポストの長さをダウンサイズできると推測できるが、未だ報告は無い。
ポストとレジンの接着は非常に重要である。間接法でダウエルコアを作成する場合も、テクニシャンにはポストの取り扱い、処理には十分気を配っていただきたい。
Part.2 ファイバーポストレジンコアを確実にセットするために
(1) 接着操作を必要とする部位
ファイバーポストレジンコアを歯牙に接着させるためには、接着剤であるボンディングレジンが歯質、ファイバーポストと確実に接着しなければならない。つまり、接着を要する部分は、「象牙質」と「レジンコーティングされたグラスファイバー表面」の2部位に集約される。それぞれの特性をふまえて考えてみたい。
ⅰレジンと象牙質
象牙質ボンディングの基本的概念
デュアルキュア型の歯科用象牙質接着剤を用いてデュアルキュア型の歯科用支台築造材料を用いる必要がある。
また象牙質ボンディングを確実に行なうために可及的にラバーダム防湿を行い、水分の混ざっていないエアーを用いる事が必要であると考えている。3ウェイシリンジの構造上、内部に残った水分が吐き出されやすい。これがアセトンやエタノールを飛ばすためにボンディング後の歯面に吹きつけられれば、接着は良好には行なわれない。(写真 ファインエアー)
根管治療において、支台築造に影響を及ぼすもの
金属に比べて強度に劣るレジンによる支台築造は、化学的に歯質と接着するかどうかが勝負の分かれ目である。根管治療における薬剤については、歯質とレジンの接着に不利なものがあり、薬剤の残留は築造体の脱落を招く危険性がある。この辺りを列挙してみようと思う
ⅰ 次亜塩素酸ナトリウム
レジンの硬化には、酸素が非常に有害である。根管洗浄の主力として使用する次亜塩素酸ナトリウムは、使用直後はかなり高濃度の酸素を放出するため、根管充填直後の支台築造は注意が必要である。アスコルビン酸、スーパーボンドアクセルなどで洗浄し、中和してから作業にはいることが必要である。または、次回アポイント時になれば、継時的変化により次亜塩素酸の影響がなくなるため重合阻害にならない。
ⅱ EDTA
根管内のスメア層除去のために使用する。基本的にEDTA自体には接着阻害はないものの、製品によってはその添加剤に硬化阻害を引き起こすものがある。
シリコンオイルが配合されているものは、根管壁を一層オイルがコーティングしている状態になるので使用を勧めない。出来れば水溶性のものがよい。また、過酸化尿素が配合されているものは酸素を徐々に放出するので、根管充填後一週間ほど経過してから築造操作にはいるのが望ましい。スメア層の残留は、根管消毒の妨げになるだけでなく、根管壁と築造体との接着不良を引き起こすため、徹底的に除去するべきである。
水溶性で、過酸化尿素が配合されていないEDTAは、ゲル状タイプではFile-eze(Ultradent)、液状タイプでは高濃度のものは18%EDTA(Ultradent)、15%EDTA モルホニン(昭和薬品化工)、14.5%EDTA イーライズコンディショナー(ペントロンジャパン)低濃度のものは3%のスメアクリーン(ニシカ)がある。
ⅲ 水酸化カルシウム製剤
根管貼薬の主体は、水酸化カルシウムが中心になってきている。水酸化カルシウム製剤の中には、操作性を重視してシリコンオイルを付加したものもあり、そう言うものは前述のEDTA同様おすすめできない。水酸化カルシウムの粉末を精製水で練和するか、水溶性の製剤を使用する方が安全である。
水溶性の製剤としては、カルシペックス(ニシカ)、ウルトラカルXS(Ultradent)、マルチカル(モクダ)などがある。
ⅳ シーラー及び根管充填剤
シーラーに多用される亜鉛華ユージノールは、優れた制菌性と封鎖性を持つ材料であるが、残念ながらレジンの重合阻害剤の筆頭である。根管内を一層削除しても、粘性が高いため、削片が壁に残るとそこで重合阻害を起こす。最近では不飽和脂肪酸を基剤に使ったものや、レジン系シーラー、MTAなど、重合阻害を起こさないものが多数あるので変更を検討するべきである。
ⅱファイバーポストとレジンの接着
ファイバーポストの表面処理
ファイバーポストの接着力を低下させるものは、ファイバーポストの表面に付着した唾液、皮脂などの汚れである。試適後リン酸で表面処理をしてシランカップリング材を塗布する。
また、Cojet(3M ESPE)を用いてもよい。
(2) 直接法と間接法の使い分けについて
ⅰ直接法で行うときの注意点
象牙質とレジンとの接着強度を考えると直接法が有利になるが、コア部分の形態付与が間接法に比べ難しくなる。直接法では、気泡が入るとコアの機械的強度が著しく落ちる。またデュアルキュア型のコアレジンは、光重合させた部分と化学重合のみさせた部分では大きく強度が違う。
現在著者が用いているコア用のレジンは、クリアフィルDCボンドコア(クラレ)、ユニフィルコアEM(GC)がある。
ⅱ間接法で行うときの注意点
間接法は、直接法に比べ形態が自由に付与しやすい。またアポイント回数が一回余分に掛かってしまう。そのため根管充塞後のコロナルリーケージを起こしやすくしてしまう。
しかしコア自体(エステニアなどで製作した場合)を加圧重合(加熱)でるため直接法のものよりコア自体の強度が増す。
接着力においては間接法(重合体であるため)が劣る。推奨されるレジンセメント パナビアF2.0(クラレ)、レジセム(松風)が歯質と接着力が優れている。
直接法か間接法かどちらを選択するかは、コア自体の強度と象牙質との接着力とのバランスである。
ファイバーポストに関してどの程度のポストの長さが必要なのかは、EBMはまだ無い。よくメタルポストのルールをそのままファイバーポストに応用している症例を観るがファイバーポストの歴史は浅く、ファイバーポストそのものがメーカーにより強度が大きく異なるためEBMが無い。しかし修復の歴史から考えるとポストの長さをダウンサイズできると推測できるが、未だ報告は無い。
ポストとレジンの接着は非常に重要である。間接法でダウエルコアを作成する場合も、テクニシャンにはポストの取り扱い、処理には十分気を配っていただきたい。
後書き
審美という大きなうねりの中、支台築造も補綴修復のためのファンデーションレストレーションズという
下地作りという考え方に変わってきた。
今後、根管充塞剤、接着歯学の進歩によりファイバーポスト、レジンコアとの関係もまた変わってくるであろう。さらなる時代に合わせた検証が必要になるだろう。
卒業後、デンタルフィロソフィーを教えてくださった村岡博先生(故人)、
マイクロデンティストリーをご指導してくださっている鈴木真名先生、岡口守雄先生をはじめとする諸先生方、技工を頼んでいる原宿補綴研究所にこの場をお借りして深謝申し上げたい。v